広島高等裁判所岡山支部 昭和24年(ネ)79号 判決
控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、本件買収計画は、被控訴人を自作農創設特別措置法第三条第一項第一号所定の不在地主として立てられたものであるが、これについての異議及び訴願では、本件農地が小作地か自作地かが主要な争点となつたため、仮りに自作地としても、それは同条第五項第二号所定の仮装自作地であるから、買収計画は結局正当に帰するというのが、原決定及び裁決の趣旨であつて、その間に矛盾はない。仮りに然らずとするも、本件裁決は行政事件訴訟特例法第十一条の精神からすれば違法ではない。と述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。(立証省略)
三、理 由
昭和二十二年七月十四日当時の阿哲郡豊永村農地委員会は被控訴人所有の原判決添附目録表示の被控訴人所有の農地を自作農創設特別措置法第三条第一項第一号所定の不在地主の所有する小作地として買収計画を立てたのに対し、被控訴人は同月二十二日異議の申立をしたところ、右委員会は同年八月九日本件農地が同条第五項第二号所定の仮装自作地に該当するものとしてこれを却下したので、更に被控訴人は同月十八日訴願したのに対し控訴人委員会は同年十月六日これを棄却する旨の裁決をしたことは、当事者間に争がない。
被控訴人は、その住所が本件農地の所在地である阿哲郡豊永村にあつて、これを自作しているから、右農地を不在地主の所有する小作地としてたてた買収計画は違法であると主張するので、先ず本件農地が小作地か自作地かについて判断する。
右主張に対し、控訴人は被控訴人が昭和二十年十月から翌二十一年九月まで自作していたことは認めるが、その後殊に本件買収計画樹立当時は訴外藤原文二に小作させていたものであると反ばくするけれども、成立に争のない甲第四号証、当裁判所が真正に成立したと認める乙第三号証の一、二、原審及び当審証人森下国義の証言と被控訴人本人の尋問の結果(但し、いずれも一部)に当審証人藤原文二の証言を綜合すれば、被控訴人は昭和二十一年秋から本件農地の耕作を訴外藤原文二に依頼し、収穫物を半分ずつ双方が取得する約定であつたので、植付に際しては予め文二が控訴人の指図を受けており、昭和二十二年の葉煙草の栽培についても、文二は被控訴人の承諾を得てしたこと及び本件農地に関する供出は文二名義でしたものではないことを認めることができ、右認定に反する原審証人国長類太郎、当審証人植田雄一郎、東山照の各証言部分はいずれも措信できず他に右認定を左右するに足る証拠がないから、本件買収計画樹立当時訴外藤原文二は本件農地を小作していたのではなく、その耕作を請負つていたものと解するのを相当とする。従つて本件農地を不在地主の小作地とする買収計画は、被控訴人が在村するか否を判断するまでもなく違法といわねばならぬ。
控訴人は本件買収計画が不在地主の所有する小作地としては違法であつても、仮装自作地としては適法であると主張するけれども、前者は法定の要件さえ充たせば法律上当然買収できるのに反し、後者は法定の要件を充たしていても農業委員会が自作農創設上政府において買収することを相当と認めなければ買収できないのであるから、買収の手続を異にするものであつて彼此転換は許されないものと解すべきであるから、此の点に関する控訴人の主張は採用できない。
以上の理由からすれば、本件買収計画は違法であり、従つてこれを容認した裁決も亦違法で取消を免れないわけであるが、かくては次に判示するように公共の福祉に適合しないものと結論せざるを得ない。
自作農創設特別措置法は耕作者の地位を安定し、その労働の成果を公正に享受させるため自作農を創設し、他面土地の農業上の利用を増進し以て農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図ることを目的とすることは、同法第一条の明定するところである。従つて農地の所有者が自ら耕作しないでこれを第三者に請負わせる等の仮装自作地を買収すべきものとしていることも亦右目的を達成せんがためにほかならない。然るに被控訴人は元来農を本業とせず、大正十三年以降養蚕教師として各地を転勤し、昭和十七年八月から昭和二十年十月までは津山市の工場に勤務し、昭和二十一年十月からは、農地の所在地と数里を隔てる肩書地に家族と共に居住して木材業を営んでいることは被控訴人の自白するところであつて、前記国長類太郎、植田雄一郎、藤原文二、東山照の証言を綜合すれば、被控訴人は本件農地のほかには、本件異議申立により買収から除外された畑六畝十一歩を所有するだけで、これは第三者が耕作していること、本件農地は山地にあつて地味も豊かでないため堆肥を入れねばならない上に、被控訴人は農具も役牛も持つておらず、地元に居住していない為に下肥を施すことも困難な状態にあつて、他の援助がなければ、耕作が不可能で、現に昭和二十五年五月当時は草が茫々と生えている始末であることが認められ、右認定に反する前記森下国義及び被控訴人の供述部分は措信しない。右認定事実によれば、被控訴人が本件農地を自ら耕作することは前記法律の目的である農地の生産力を増強することを期待することはできず、さればといつてこれを第三者に耕作させると仮装自作地或は不在地主(この点は原判決の理由を引用する)の小作地として買収を免れないことは明かであるから、本件農地の農業上の利用を増進するためには、これを買収して専業農家の耕作に委ねることが前記法律の目的にそい、ひいては公共の福祉に適合する所以であるといわねばならぬ。
よつて被控訴人の請求は行政事件訴訟特例法第十一条によりこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第八十九条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 三宅芳郎 林観一 佐藤清)